本能的な恐怖ともうひとりの一人の外国人

海外旅行で私が訪れたかったのは、シンガポールにあるガーデンズ・バイ・ザ・ベイ。

園内には巨大なキノコのようなかたちをしたツリーが何本もあり、展望台になっているものもあれば、二本のツリーを吊り橋で繋げることで、歩けるようになっているところもあります。

この空中回廊はOCBCスカイウェイと呼ばれています。

https://www.gardensbythebay.com.sg/en/things-to-do/attractions/ocbc-skyway.html

高さは約22m。
ChatGPTによると22mは

・7階建てマンションくらい

・バスケットゴールを縦に7個積んだ高さ

・奈良の大仏よりも少し高い。(東大寺の大仏が台座を含めて約18m)

程度の高さらしいです。

ガーデンズ・バイ・ザ・ベイはマリーナ湾に面しており、スカイウェイからは海を見渡せる。遮るものもないため、海風は強く吹き付ける。

混雑緩和のためか1グループの上にいられる時間はおよそ15分と説明された。

(もちろん英語の説明なのでほとんどわからないが、説明文を指さしながら話してたので、たぶんそうだろう)

ファミリー連れや、夫婦できているらしい外国人に混じり、私もツリー内部のエレベーターに案内され吊り橋へ。

扉が開き外に出た瞬間、思わず足を踏ん張る。

ガーデンズ・バイ・ザ・ベイはマリーナ湾に面しており、スカイウェイからは海を見渡せる。遮るものもないため、海風は強く吹き付ける。

カメラを首にかけ歩きながら、写真を撮る。

時間や人数制限のためか、橋の上を歩いている人はあまり多くない。それでも誰かが歩くと橋の揺れを感じる。そして収まることのない風も橋を揺らし続ける。

ひときわ風が強く吹いた。一瞬足から力がぬけ、歩みが止まる。

足がすくんだ?

ちょっと待て。30超えた大人が吊り橋で身動きが取れなくなる? 冗談じゃない。前を歩く子どもだって自分の足で歩いているのに。

心臓がドキドキしている。呼吸を整え直した。一歩を踏み出す。

動いた。良かった。

心の底から思った。

高所への苦手意識はなかった。それでも恐怖に襲われた。理屈では説明できない、本能的な根源的な恐怖が。

自分も人間だったんだ、とふと思った。

まだ足元は頼りない。カメラのレンズを変える時、いつも以上に慎重さを意識する。

橋自体には金網が張ってあるので、ものが落ちる心配はない。

それでも、もしレンズが誰かの頭の上に落ちれば自分は殺人者だと思った。

時間は夕方。日が落ち始め空も、海も、高層ビルも巨大な観覧車もモニュメントも徐々に夕日と影に染まり始めていた。

旅行の予約の際、写真として見た光景だったが、画面の中だけの写真と実際の光景はやはり違う。平面は多面的になり、画面から目を離せば味気ない自分の部屋だったのに、今は空も海も街もどこまでも続く。どこに視線をやっても、眼の前の風景は私を逃さない。

海外の男性に声をかけられた。スマホを手に持ち、ピクチャーという単語が聞き取れる。

「OK、OK」

高所の恐怖で歪まないよう、大げさな笑顔を作る。

マリーナベイサンズというリゾート施設をバックに男性を画面に収めた。

男性に写真を確認してもらうと、彼は笑顔で「Thank you!」「Perfect!」と言った。

彼の周りに連れはいなかった。彼も一人できていたのだろうか。それとも高いところがだめなパートナーが、地上でハラハラしながら彼の帰りを待っているのだろうか?

聞きたい気もしたが、英語が話せない私は笑顔でその場を離れた。

顔のこわばりは解けていた。足元はさっきよりも確かになっていた。